開発が遅れたら増員すればいい?『人月の神話』から考える判断材料

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開発が遅れたら増員すればいい?『人月の神話』から考える判断材料

開発が遅れていると、「あと一人入れれば間に合うのでは」と考えたくなります。人手が足りない仕事なら支援が有効なこともありますが、人数を増やした分だけ残り日数が減るとは限りません。

増員を考えるときは、残作業を分けられるか、教える人の時間を確保できるか、参加者が作業を始める条件が整っているかを確認します。期限を変える、作る範囲を変えるといった選択肢とも比べます。

この記事では『人月の神話』で扱われる見積もりの問題を入り口に、小さなチームの架空ケースを考えます。本の長い要約や、著者本人の読後体験として書いた記事ではありません。

『人月の神話』を、どの範囲で参照するか

本棚で案内しているのは、フレデリック・P・ブルックス,Jr.著、滝沢徹・牧野祐子・富澤昇訳の『人月の神話【新装版】』です。対象のISBNは9784621066089です。

国立国会図書館の書誌で、丸善出版の日本語版と、原著Anniversary Editionの翻訳であることを確認できます。同ページに掲載された出版情報登録センターの紹介では、人数と月数を単純に掛け合わせる見積もりの問題を扱う本として説明されています。日本語版の書誌と紹介

英語原著の出版者は、分業によって大規模な開発に固有の管理上の問題が生じる、という論点を紹介しています。英語原著の出版者情報

ここから、今回の記事では「人数だけで作業時間を割る前に、分け方と調整の負担を確認する」という判断の問いを取り出します。以下の事例や表は、その問いを小さな仕事で考えるために独自に作ったものです。日本語本文の章や訳文を再現するものではありません。

先に、何が遅れを生んでいるかを分ける

架空の問い合わせ管理を改修しているとします。件名は必須で1〜100文字、状態は下書き・受付済み・対応中・完了、利用者には投稿者と担当者がいます。

「件名の入力チェックが終わらない」という報告でも、理由はさまざまです。実装する量が多いのか、空白だけの件名を許すか決まっていないのか、保存処理の担当者から返答がないのかでは、必要な支援が変わります。

止まっている理由最初に考える支援
決まった作業を処理しきれない独立して渡せる仕事を探す
仕様が決まらない決定者と確認時点を揃える
必要な環境や権限がない利用手続きや環境準備を進める
一人に確認が集中している確認の分担、資料、範囲を見直す

人が一人加わっても、仕様の判断が必要な状態は残ります。参加者が判断できる権限や知識を持っているなら助けになりますが、それは単なる人数の追加とは違う支援です。

増員を相談する前に「誰か来てほしい」から、「何を進める人が必要か」へ言い換えます。これだけでも、頼む相手と任せる範囲を選びやすくなります。

ケースA:独立した確認作業を渡せる

最初のケースでは、件名の仕様と実装方針は決まっています。既存担当は入力チェックの修正を進めており、別に、合意した確認項目を検証環境で実行して結果を残す作業があります。

支援する人は検証環境を利用でき、操作手順と期待する結果を読めます。最初の一件だけ一緒に確かめれば、その後の確認を進められる見通しがあるとします。結果をレビューする担当者の時間も確保します。

この場合は、独立した成果を受け取れるため、支援を検討しやすくなります。ただし、実装が終わらないと実行できない項目もあります。待ち時間には確認データの準備などを進められるかを整理します。

「テストを全部任せる」では広すぎます。「この版の変更に対し、合意済みの項目を実行し、期待結果との差を記録する」と渡す方が、開始条件も完了条件も明確になります。

ケースB:全員が同じ担当者の判断を待つ

次のケースでは、受付後に誰が件名を変更してよいかが未決です。状態の確認処理も保存処理も一人しか把握しておらず、資料は十分にありません。

ここへ二人追加しても、二人が同じ担当者へ仕様とコードを質問し、その担当者が説明のために実装を止める場面が考えられます。レビューも同じ人へ集中するなら、コードを書ける人数だけが増えても、受け取るまでの仕事は進みません。

この状況で考えるのは、増員を否定することではありません。まず仕様を決める人を確保する、短い共同作業で理解を共有する、引き継ぎに必要な資料を残す、といった受入準備です。

そのうえで、範囲を絞った作業を渡せるかを見ます。残り期限が短ければ、今回の納期を助ける増員と、次の改修に備えた引き継ぎは分けて判断する必要があります。

増員前に、五つの判断材料を並べる

二つのケースの違いは、人の能力を一律に評価したものではありません。渡せる仕事と、受け入れる条件の違いです。

判断材料確認する問い
分割可能性別の人が独立して進め、結果を受け取れる仕事は何か
引き継ぎ負荷誰が何を説明し、どれくらい作業を中断する見込みか
受入条件環境・権限・資料・相談先は揃っているか
確認する力増えた成果を誰がレビューし、問題を判断するか
期限準備を含めて、必要な時点までに役立つ見通しがあるか
分割可能性、引き継ぎ負荷、受入条件、確認担当、期限の五つを並べる図
人数だけで割らず、作業を始めて受け取るまでを考えます。

この表は点数を付けて機械的に増員可否を決めるものではありません。分からない欄があるなら、短い調査や一件だけの試行で見通しを確かめます。説明の時間を見込まずに、追加した人の作業時間だけを足すことは避けます。

既存担当を守るため、問い合わせを一つの窓口へまとめたり、まとめて確認する時間を置いたりする方法もあります。ただし、資料作成や質問の整理にも時間がかかります。準備を無料の作業として扱わないことが大切です。

増員・範囲・期限を、同じ前提で相談する

相談の場では、増員だけを唯一の選択肢にしない方が、目的に合わせて判断できます。

件名の必須と上限の対応は進められますが、受付後の編集権限が未決です。今の遅れの中心は仕様確認で、実装担当を追加しても直ちに解消しません。まず仕様担当との確認をお願いします。その後、独立して実行できる確認項目を支援者へ渡す案と、受付後の変更を今回の対象から外す案を比較したいです。

範囲を外す場合も、担当者だけで決めるものではありません。利用者への影響や目的を踏まえ、決定権を持つ人と合意します。期限を変える案についても、いつ何が使えるようになるかを具体的に示します。

仕事量の相談の入口は引き受け方と作業量の調整、実際に任せる範囲を作る方法は仕事の任せ方と引き継ぎで整理しています。

『人月の神話【新装版】』は、分業と見積もりをさらに考える資料の候補として、リーダー候補の本棚(Amazon・アフィリエイトを含みます)で案内しています。本の議論を、現代のすべてのチームへそのまま当てはめることはしません。

増員は、必ず遅れを悪化させるものでも、必ず解消するものでもありません。次に増員を考えるときは、残作業から独立して渡せる一件を選び、その開始条件と確認担当を書いてみてください。「何人ほしいか」を相談するための、具体的な材料になります。

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