この記事でわかること
仕様書にない既存動作を調べ、残すべき戻り値をJUnitで確かめる手順です。Javaの配送判定を、整理する前、整理した後、新しい仕様を入れた後の3段階で比較します。


保守チームに「離島の注文は発送前に人が確認する」という依頼が来ました。配送判定のクラスにはすでに、発送できない品目を止める処理と、住所が不足した注文を保留する処理が混ざっています。担当を分ければ離島の条件は追加しやすくなります。順番を入れ替えただけで、発送禁止の品が確認待ちに流れると困ります。
仕様書には「配送できない場合はエラー」としかありません。既存コードが実際に返す値を調べ、連携先での意味を確認し、残すと決めた動作をテストへ移します。ここではこの作業を、既存の振る舞いを記録する特性テストと呼びます。
実行用サンプル
ZIPには、整理する前と後のコード、DeliveryDecisionTest.java、pom.xml、READMEを収録。JDK 17とMaven 3.9系で mvn test を実行できます。DBやSpringは不要です。
先に、連携先が受け取る3つの値を確認する
受付側から見ると、判定メソッド check(boolean prohibited, String postalCode, String zone) は、品目の禁止フラグ、配送先の郵便番号、地域コードを受け取ります。戻り値は文字列です。今回の架空システムでは、その文字列に応じて連携先が次の処理を選びます。
| 戻り値 | 連携先の処理 |
|---|---|
OK | 通常の発送処理へ進める |
HOLD | 住所や地域を担当者が確認する |
NG | 発送対象から除外する |
まず連携先の分岐やテスト、過去の仕様確認を調べます。旧版を動かして分かるのは「今は何を返すか」です。「変更後も何を返すべきか」は、連携先の処理と今回の依頼を照らして、保守担当と決めます。
たとえば郵便番号未入力で HOLD になる処理は、担当者が住所を補う運用に使われていました。一方、禁止品を NG にする理由は、発送対象から外すためです。両条件に該当しても禁止品を除外する、と確認しておけば、分割後に守る順番が決まります。連携先を確認できない結果は、観測結果として残し、確定した仕様と分けて扱います。
分割前のコードを動かし、条件が重なるケースを選ぶ
分割前の LegacyDeliveryDecision.java です。最初に禁止品を判定し、次に郵便番号の欠損を調べます。zone は既存の呼び出し口にありますが、この版は使っていません。呼び出し側の引数を変えず、既存の結果を調べるところから始めます。
package info.syachiku.characterization;
public final class LegacyDeliveryDecision implements DeliveryDecision {
@Override
public String check(boolean prohibited, String postalCode, String zone) {
if (prohibited) {
return "NG";
}
if (postalCode == null || postalCode.isBlank()) {
return "HOLD";
}
return "OK";
}
}通常注文、住所が足りない注文、禁止品を一つずつ動かします。そのあとに、住所が足りない禁止品を用意します。単独の条件がすべて正しく動いていても、条件が重なったときの優先順位は、両方を満たす入力を作って初めて確かめられます。地域ルールを足す予定なので、変更予定の離島注文と、今後も止めたい離島の禁止品も先に記録します。
先に分割前のC02とC05だけを動かします。冒頭のZIPを展開し、pom.xml がある場所で mvn compile を実行します。同じ場所に ObserveLegacy.java を作り、次のコードを保存してください。2つの呼び出しはどちらも郵便番号が半角空白1文字で、禁止品フラグだけが違います。
import info.syachiku.characterization.LegacyDeliveryDecision;
class ObserveLegacy {
public static void main(String[] args) {
var legacy = new LegacyDeliveryDecision();
System.out.println("C02 " + legacy.check(false, " ", "NORMAL"));
System.out.println("C05 " + legacy.check(true, " ", "NORMAL"));
}
}java -cp target/classes ObserveLegacy.java を実行すると、通常品の C02 HOLD と禁止品の C05 NG が順に出ます。住所の状態をそろえて禁止品だけに NG が返ると分かったら、連携先でも NG を発送対象から外すことを確認します。この2行を、下の表の「分割前・分割後」列に対応させてください。
| ID | 禁止品 | 郵便番号 | 地域 | 分割前・分割後 | 地域変更後 |
|---|---|---|---|---|---|
| C01 | いいえ | 100-0001 | NORMAL | OK | OK |
| C02 | いいえ | 半角空白1文字 | NORMAL | HOLD | HOLD |
| C03 | いいえ | null | NORMAL | HOLD | HOLD |
| C04 | はい | 100-0001 | NORMAL | NG | NG |
| C05 | はい | 半角空白1文字 | NORMAL | NG | NG |
| C06 | いいえ | 100-0001 | REMOTE | OK | HOLD |
| C07 | はい | 100-0001 | REMOTE | NG | NG |
C02とC03は、フォームから空白が来る場合と、データ連携で値が欠ける場合を分けています。C05は、郵便番号より禁止品が優先される確認です。C07は同じ優先順位を離島条件が加わった後も確かめる行です。郵便番号の桁数や地域マスタの妥当性は、今回の改修で決める配送判定の範囲に入れていません。
テストは呼び出し口に置き、判断を分けても使い回す
整理した後は、保留理由の判定を ShipmentReviewPolicy に移します。禁止品を先に除外して最後に戻り値を決める役割は、RefactoredDeliveryDecision に残します。地域の追加条件は「担当者の確認が必要か」に関わるので、後で保留判定へ足せます。
package info.syachiku.characterization;
public final class RefactoredDeliveryDecision implements DeliveryDecision {
private final ShipmentReviewPolicy reviewPolicy;
public RefactoredDeliveryDecision() {
this(new ShipmentReviewPolicy(false));
}
private RefactoredDeliveryDecision(ShipmentReviewPolicy reviewPolicy) {
this.reviewPolicy = reviewPolicy;
}
public static RefactoredDeliveryDecision withRemoteReview() {
return new RefactoredDeliveryDecision(new ShipmentReviewPolicy(true));
}
@Override
public String check(boolean prohibited, String postalCode, String zone) {
if (prohibited) {
return "NG";
}
if (reviewPolicy.requiresReview(postalCode, zone)) {
return "HOLD";
}
return "OK";
}
}package info.syachiku.characterization;
final class ShipmentReviewPolicy {
private final boolean holdRemoteZone;
ShipmentReviewPolicy(boolean holdRemoteZone) {
this.holdRemoteZone = holdRemoteZone;
}
boolean requiresReview(String postalCode, String zone) {
return postalCode == null || postalCode.isBlank()
|| (holdRemoteZone && "REMOTE".equals(zone));
}
}分割だけを確認するときは、new RefactoredDeliveryDecision() を使います。この入口が選ぶ保留条件は分割前と同じです。withRemoteReview() は仕様変更後の比較用で、両方を一つのプロジェクトで動かせるよう残しています。実案件で旧仕様を残す必要がなければ、移行のためだけに切り替え設定を作る必要はありません。
テストが呼ぶのは両方のクラスが提供する check() です。中で ShipmentReviewPolicy を何回呼ぶかや、どのprivateメソッドに処理があるかをテストの条件にすると、返す値が同じでも移動のたびにテストまで直すことになります。今回の連携先が使うのは戻り値なので、そこを比較します。通知や保存が呼び出し口の約束に含まれる改修なら、その結果も別の期待値として追加します。
同じ7ケースを分割前後に当て、離島の1行だけ変更する
テストの全文です。sameBehaviorCases() は、表の「分割前・分割後」列を2つの実装へ適用します。remoteReviewCases() は、離島を保留する版に表の最後の列を適用します。C06以外の期待値は、どの版でも同じです。
package info.syachiku.characterization;
import java.util.stream.Stream;
import org.junit.jupiter.params.ParameterizedTest;
import org.junit.jupiter.params.provider.Arguments;
import org.junit.jupiter.params.provider.MethodSource;
import static org.junit.jupiter.api.Assertions.assertEquals;
class DeliveryDecisionTest {
@ParameterizedTest(name = "{0} {1}")
@MethodSource("sameBehaviorCases")
void beforeAndAfterGiveTheSameResult(
String version, String caseId, DeliveryDecision decision,
boolean prohibited, String postalCode, String zone, String expected) {
assertEquals(expected, decision.check(prohibited, postalCode, zone));
}
@ParameterizedTest(name = "{0}")
@MethodSource("remoteReviewCases")
void remoteReviewChangesOnlyTheApprovedCase(
String caseId, boolean prohibited, String postalCode, String zone, String expected) {
var decision = RefactoredDeliveryDecision.withRemoteReview();
assertEquals(expected, decision.check(prohibited, postalCode, zone));
}
static Stream<Arguments> sameBehaviorCases() {
return Stream.concat(
cases(false).map(c -> c.forImplementation("Before", new LegacyDeliveryDecision())),
cases(false).map(c -> c.forImplementation("After", new RefactoredDeliveryDecision())));
}
static Stream<Arguments> remoteReviewCases() {
return cases(true).map(c -> Arguments.of(c.id(), c.prohibited(), c.postalCode(), c.zone(), c.expected()));
}
private static Stream<DeliveryCase> cases(boolean holdRemoteZone) {
return Stream.of(
new DeliveryCase("C01", false, "100-0001", "NORMAL", "OK"),
new DeliveryCase("C02", false, " ", "NORMAL", "HOLD"),
new DeliveryCase("C03", false, null, "NORMAL", "HOLD"),
new DeliveryCase("C04", true, "100-0001", "NORMAL", "NG"),
new DeliveryCase("C05", true, " ", "NORMAL", "NG"),
new DeliveryCase("C06", false, "100-0001", "REMOTE", holdRemoteZone ? "HOLD" : "OK"),
new DeliveryCase("C07", true, "100-0001", "REMOTE", "NG"));
}
private record DeliveryCase(
String id, boolean prohibited, String postalCode, String zone, String expected) {
Arguments forImplementation(String version, DeliveryDecision decision) {
return Arguments.of(version, id, decision, prohibited, postalCode, zone, expected);
}
}
}ZIPを展開し、pom.xml がある場所で mvn test を実行します。分割前7件、分割後7件、仕様変更後7件が成功します。DeliveryDecisionTest の2つのテストメソッドは、表の行ごとに実行するため合計21件です。
Tests run: 21, Failures: 0, Errors: 0, Skipped: 0変更依頼の担当者が合意したのは、地域が REMOTE で通常の商品を確認待ちにすることです。C06の期待値だけを HOLD に変えます。C07まで HOLD に変えると禁止品が確認待ちに流れてしまうため、NG のまま残します。
判定順を入れ替え、テストが退行を見つけることを確かめる
展開したサンプルのコピーで、RefactoredDeliveryDecision#check の禁止品を返す if と、保留を返す if の順番を逆にして mvn test を実行します。AfterのC05と、離島変更後のC05・C07が失敗します。どれも expected: <NG> but was: <HOLD> です。
この結果が出たら、失敗する注文と連携先での影響を確認します。C05では住所が欠けた禁止品が HOLD になり、担当者の確認待ちへ流れます。C07では離島条件を先に判定したため、郵便番号があっても同じことが起きます。禁止品を先に判定する順序へ戻し、21件が成功することを確かめます。
動作を変えない整理のコミットでこの3件が落ちたら、期待値を新しい実行結果に合わせる前に、まず分割前の値と照合します。業務仕様を変えるコミットでは、変更するケースIDと承認内容を対応させます。これでレビューする側は、コードを移した差分と、戻り値を変えた差分を分けて追えます。
レビューに、観測した事実と変えてよい値を書く
レビューで「クラスを分けました。全件通りました」だけだと、何を引き継いだかが伝わりません。今回なら、次のように実行結果と仕様変更を対応させます。
配送判定を整理する変更では、連携先が受け取るOK・HOLD・NGを7ケースで比較しました。禁止品で住所が未入力でもNGを返すことをC05で確認しています。離島の確認を加える変更では、C06だけOKからHOLDに変えています。離島でも禁止品はNGです。
- 既存コードを動かし、戻り値と連携先の扱いを確認した。
- 複数の条件が同時に成り立つケースを少なくとも一つ用意した。
- 整理だけの変更は同じ期待値でテストした。仕様変更は変える行を特定した。
- 判定順を崩したコードで失敗し、修正後に全件成功することを確認した。
テストをクラスの内部構造に結び付けてしまい、整理のたびに書き換える負担が大きいと感じたら、『単体テストの考え方/使い方』で、テストがどの結果を守るべきかを掘り下げられます。
単体テストの考え方/使い方
単体テストで「何を検証するか」の判断基準を学ぶ。
モックの使いどころや壊れにくいテストの考え方を整理できます。コード例はC#です。JUnitの操作入門ではなく、テストの設計と価値を深める本です。
- テスト対象の切り分けに迷っている
- 保守しやすい単体テストを書きたい
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