この記事に書いてあること
多くの会社では、仕事をするに際して目標を設定させられることが多いと思います。それは、個人目標として一年や半年に一回振り返って達成状況を確認し、上司とのコミュニケーションを経て次期の目標を設定する。
こんな運用が多いと思います。
自社でもそういった運用をしてるんですが、目標を設定して書いたところで社員数が多いのでいざ評価の段階になると「達成したのかよくわからない」みたいなことを言われてがっかりしている社員も多いです。
しかしSEにとって日々の成長は不可欠ですから、運用の悲しい実態に不満を言うのではなく、そんなの無視して着実にスキルアップを図って行きたいものです。
※別に不満を言うのはいいんですが、不満だけで終わってはいけないよという話です。
で、この時によく部下や後輩が困っているのが「どんな目標を設定すればいいかわからない」というものです。
今回はこれについて啓蒙したい。
よくある若手の目標設定
毎回必ずと言っていいほど、以下のような物が上がってきます。
- Javaのスキルを向上する
- データベーススペシャリストの資格を取る
- 生産性を向上させる
これらの目標単体が悪いとは言わないのですが、「何故この目標なのか?」と聞いた時に「今の自分に足りていないから」という旨の回答がほとんどとなっています。
つまりこれらは、「今自分に足りていないものをとりあえず目標とした」程度の物でしかない場合がほとんどであり、これは「目標としては悪い」という回答をします。
今足りていないことを目標とする問題点(ボトムアップ式目標の問題点)
今、NOW、目の前の仕事で足りていないスキルを目標として設定してしまうことは大いに問題があります。
そしてその問題というのは、短期的な物ではなく中長期的に考えた時に問題として露見します。
私はこれをボトムアップ式目標と呼んでいます。
短期的に見るとJavaのスキル向上というのは自分の仕事に寄与しているのですが、この目標は恐らく1,2ヶ月もしないうちに忘れ去られてしまいます。
何故なら、今の仕事に必要なJavaのスキルというのは大抵の場合は1ヶ月も仕事していれば習得できてしまうからです。
つまり、自分から積極的に習得しにいかなくても環境にいれば身に付くことを目標としているということです。一々意識せずとも身に付きますし、身に付かないなら恐らくその仕事には向いてないです。
Javaのスキルアップを掲げた若手は、次の目標設定では「IPAの資格を取る」とか「生産性を向上する」といった漠然とした目標を掲げることとなります。
そして、このようにして立てていく目標は、非常に早い段階で頭打ちとなることが最大の問題だと思っています。
何故かというと、自社で行う仕事は大抵の場合同じ技術の使い回しだからです。ボトムアップは自社の業務をMAXとして積み上げていくので、どうしてもそこが限界になります。
IT業界はかなり広いですから、全部を網羅することはできません。技術も多く登場しますし、小売と保険では業務が違いすぎて知識は役に立たないでしょう。
そもそも若手としてはその辺に意識が向きづらいことの方が多いです。特に最近では、従来のIT業界と言う枠を外れて、医療との融合や農業、ロボット分野やクルマなど、可能性は更に広がっています。
その様子を以下の図で表しました。
どうでしょう。こんな感じじゃないでしょうか。自分の範囲があって、それの外には別チームや別部署の仕事があって、他社に目を向ければまた違った技術や業界の開発をやっている。
で、ボトムアップ式というのは基本的に自分の開発範囲をカバーしたら終わりです。何故なら、今困っていることにフォーカスしているので、経験を少し積んで慣れてくれば、新しい課題は見つからなくなります。
せいぜいが、チームを移動した時に「新しくC言語が必要になった」とか「病院の業務知識が必要になった」程度の物です。
しかし、これでは今後の日本のIT業界では「使えない人材」となってしまいます。
厳密に言うと、自社以外では通用しない人材というところでしょうか。スキル習得のペースが遅すぎるのです。
これだけITという言葉が多岐にわたるようになった現在において、若手という一番エネルギッシュに成長できる機会を逸してしまうのは大変もったいないことであると考えます。
そもそも目標には「種類」がある
目標には種類があるということを意識したことはあるでしょうか?
以下のように目標にはいくつかの種類があります。これは「The Team」という本で紹介されていました。
意訳すると以下のような図になります。
言っていることは概ね以下の通りです。
※ちなみに、The Teamの主題は「若手とか末端とか関係なしに抽象度の高い目標に向かって一丸となるチームを作ろうぜ」って感じです。
- 目標の抽象度が上がるほど行動には選択の余地が生まれる。
- 抽象度の高い目標は組織の幹部が考えことがほとんど。
- 担当者レベルの目標しか立てられない人は、モチベーションやスキルアップを保てない
先程書いた通り、担当者レベルの目標で場当たり的なスキルばかりを挙げてしまうと、キャリアアップとかはそこで止まってしまいます。
特にSIerとか言われるようなところで働いている人には理解されやすいと思うのですが、周りの先輩を見たときに中途半端なスキルの人が多いのではないでしょうか。
なぜなら、彼らは入社時は技術者として入ってきますから技術を目標にします。しかし年数が少し上がってくると、プロジェクトリーダーをやるようになり、そこでようやくPMについて勉強を開始します。
そこからさらに少し経つと、プロジェクトマネージャーの仕事をする事になりますが、この頃は勉強というよりも今までの経験でやっていることが多いです。
このような流れで、技術は若手の頃止まりで、かと言ってプロジェクトマネジメントの技法も体系的に学んだわけではないという中途半端な存在が生まれてきます。
今まではそれでも仕事に困ることはありませんでしたが、今後は国の試算通りIT人材は余るのにIT人材が不足するという事態に陥りますから半端者は仕事がなくなっていきます。
※誤記ではありません。技術者が余っているのに不足するという状況が予測されています。
PMとかになりたくてPMのスキルをとことん伸ばすと言うのも価値がありますし、SEで行きたい人は技術を磨き続けないといけません。それは、自社の業務範囲に囚われることなくプロフェッショナルを目指した場合のみの話です。
こういう目標を立ててほしい
では、若手の人にどのような目標を持ってもらいたいのかというと・・・・
(どのような目標を持ってというか、目標をどのように考えた上で立てて欲しいかという方が近い)
先の例でいう「意義目標」から考えてトップダウン方式で長期的な視点を持って欲しいです。短期的に見ればJavaを習得するなどが出てくることもあるとは思いますが、場当たり的なボトムアップと確たる目標を持ってトップダウンで考えたうちの1要素では、その後の活動に雲泥の差が現れます。
「個人で会社レベルの目標を立てろということか?」と思うかもしれないのですが、そういうことではないのです。視点を少し変えてみて欲しいのです。
先程の例では意義目標は会社の経営についてでした。今、あなたに考えて欲しいのは「自分の経営」についてです。
会社の経営目標は会社の幹部が会社を成長させるために考えるものですよね?それと同じことを自分を今後80年近く経営するつもりで目標を立てて欲しいということです。
急に意識が高くなったように見えますね。待ってください、そんなたいそれたことを言いたいのではないのです。
今、少し調べると60歳で再雇用された人の嘆きや、70歳で仕事がなくてどうしようという人の嘆きで溢れかえっています。
彼らを悪くいうつもりはないのですが、これは状況に応じて自分を高めていくという習慣が無いまま歳を取ったため、「ツブシが効かない」という状況になったものだと考えられます。そういう時代ではなかったというのもあったと思います。彼らの世代からすれば、まさか60を超えてなお貧しいなんて思っても見なかったことだと思います。
現代でいうツブシが効くとは、基本的には高度なITや医療の専門知識、教授レベルの学術知識だと思っています。営業や普通の教師などはなり手がいくらでもいるのでわざわざ高齢者を使う必要性は薄いでしょう。
話を戻しましょう。以下のマインドマップを見てください。先の目標を図式化したものです。
これは私が2年目に掲げた目標です。個人の目標です。末端の目標が行動目標ということになります。
このようにブレイクダウンした中にJavaのスキル向上などをい入れてあるため、Javaのスキル向上はあくまでも通過点ということになります。それも、かなり末端の。
例えば、このように意義目標や成果目標を立てないまま、目の前の作業をこなすためだけの目標を立てるとどうなるでしょうか。
これで終わりでしょう。「何のために」というのが欠けているため、いまいち意欲的に学習する気にもなりません。
それなりのプログラムを組めるようになり、何となくSpringDataJpaなどを触れるようになったら満足してしまうでしょう。
または、あまり実用性の乏しい部分まで学習してしまい、時間を無駄にする可能性もあります。(例えば、AWSの全サービスをマスターしようとするとか。それはそれで価値はあると思うのですが、何をしたくてというのがなくて、いまいち成果を出せないと思います。)
で、こういう状態の人は、次の案件でC#が必要になればC#を目標に組み込むし、LDAPが必要になればLDAPを目標に入れるでしょう。その結果、場当たり的に中途半端な知識しかつかないので、30代とか40代になった時に大したスキルのない技術者となり、ツブシが効かない状態になりそうです。
このように長期的な目標を立てて、その中を時代に応じて柔軟に組み替えながら素早く小さなゴールを達成していくことが重要になると思います。
ITはコモディティ化しました。
車を買いに行った時に営業さんから「この車、なんと時速80Kmで走れるんですよ!」と言われても全く驚かないのと一緒です。むしろ、「その程度当たり前じゃん何言ってんの」と思われます。
「Javaができます」というのは何の売りにもならない時代がそこまで来ています。小学生ですらプログラミングを学ぶ時代です。
そんな状況の中、「Javaを勉強します」程度の目標達成に1年かかるようだと、将来は暗いかもしれません。
会社は最後まで面倒を見てはくれません。どこかで自立しないといけないタイミングが来ます。
そこで自立ができるように、自分の価値をしっかりと高めていきたいものですね。体力のある若いうちが勝負ですよ!
※投資家になって働かずに生きたいなぁ・・・・