自分は新しい仕組みを作りたいのに、メンバーは「今のままでよくないですか」と言う。目的を説明しても反応は薄い。リーダーだけが熱くなっているようで、腹が立つ。
初めてチームを率いる人ほど、この反応を自分のリーダーシップへの評価として受け取りがちです。ただ、全員を自分と同じ熱量にすることを目標にすると、仕事の相談が意欲の審査になります。
そろえるのは感情ではなく、仕事の合意です。
成果・優先順位・守る基準・担当を決め、それが実行されているかを見ます。目的を共有した後も意見が違うなら、賛同を強要するより、仕事として引き受ける範囲を合意します。
「熱量が低い」を、困っている行動へ言い換える
次の二つは、同じ問題ではありません。
- 会議では静かだが、期限までに必要なレビューを返している。
- 会議では前向きだが、合意したレビューを何度も放置する。
前者に元気な反応を求めても、仕事は改善しません。後者は盛り上がりに関係なく、合意が守られていない問題として扱う必要があります。
「もっと主体的に」と言う前に、何が起きて、誰の仕事にどんな影響が出たかを書いてください。「毎週のレビューが翌週へ持ち越され、実装担当が修正をまとめて受けている」なら、改善する対象が見えます。
自動テスト導入への反対を、三つに分けて扱う
以下は架空のチームです。リーダーは、リリース前の手作業を減らすため自動テストを入れたい。担当者は消極的です。ここで「新しいことが嫌なのか」と決めつけないで、反対の中身を確認します。
| 本人の説明 | 実際の論点 | リーダーが決めること |
|---|---|---|
| 今月の改修だけで手いっぱい | 目的ではなく作業量の問題 | 何を外し、導入へ何時間使うか |
| 画面変更のたびに壊れそう | 方法の妥当性への反論 | どの層で、何を試して判断するか |
| 必要なのは分かるが、導入役は自分には重い | 役割・習熟度の問題 | 実装担当と支援役、最初の範囲 |
同じ「乗り気ではない」でも、残業のお願い、熱い目的説明、勉強会の追加では解決しない場合があります。聞く目的は相手の本音を暴くことではなく、選ぶべき対応を分けることです。
目的が同じでも、方法への反対は残ってよい
「品質を良くしたいですよね」と聞けば、たいてい賛成は得られます。それでは、どのテストをどれだけ作るかは決まりません。
方法に異論があるなら、比較できる小さな試行にします。例えば、変更の多い画面操作をいきなり自動化せず、計算処理を一つ選び、準備時間・失敗を検出できた内容・修正負担を見ます。結果で続け方を決めるためです。
画面テストが壊れやすいという懸念は分かりました。今回は計算処理一つに絞ります。導入の価値を判断したいので、準備と修正にかかった作業も記録してください。続ける範囲は、その結果を見て決めます。
ここで「試したら必ず成功する」とは約束しません。やることと、続けるかを判断する材料を確定させるのがリーダーの仕事です。
興味まで一致しないときは、仕事としての担当を確認する
新しい技術が好きな人も、安定した運用を重視する人もいます。同じ目標を理解していても、その仕事を一番面白いとは感じない人はいます。
説明を重ねても熱意が上がらないなら、「なぜ好きになれないか」ではなく「合意した時間と支援で、この範囲を担当できるか」を確認します。
この取り組みへの興味が私と同じである必要はありません。ただ、チームとして今月はこの確認を行います。担当してほしいのは対象処理のケース整理です。今の作業から何を外せば引き受けられますか。
業務として決めたことと、本人が自由に選べる部分を分けます。目的と期限はそろえ、調べ方や資料の形は任せる。過程まで自分の好みに統一しない方が、責任の持ち方も明確になります。
合意しても進まない場合は、温度差の話を終える
範囲・期限・支援が決まっているのに、連絡なく止まる。それが繰り返されるなら「気持ちを理解する」だけでは足りません。
まず実際の進捗を見て、詰まりや合意の食い違いがないか確認します。それでも担当範囲が実行されない場合は、担当変更や上位の責任者への相談を含めて調整します。
金曜にケース一覧を共有し、難しければ木曜に相談する合意でした。今回はどちらもありませんでした。止まった理由を確認したうえで、次の共有時点と担当範囲を決め直します。今の担当で難しいなら、役割の変更を相談します。
人格や意欲を評価する言い方ではなく、守られなかった合意と仕事への影響を扱います。必要な基準を示すことと、相手を責めることは別です。
朝会を増やす前に、会話の出口を変える
会議を増やして「どうですか」と聞くだけでは、報告回数が増えるだけです。相談が出たら、最後に何を変えるかまで決めます。
「忙しい」なら、外す仕事を決める。「仕様が未決」なら、決定者につなぐ。「方法に反対」なら、比較する材料を決める。何も変えず「頑張りましょう」で終えないことです。
次に温度差を感じたら、こう問い直してください。欲しいのは、相手の明るい反応か。それとも、合意した仕事が進むことか。 後者なら、今そろえるべき条件を一つ選べます。
権限と認識のずれまで考える一冊
『エンジニアリング組織論への招待』は、意欲だけでは説明できないチームの問題を、認識のずれや権限委譲から考えたいときの候補です。出版社の目次で扱うテーマを確認できます。
この記事の自動テスト導入例を本の事例として紹介しているわけではありません。担当の切り分けを超えて、チームの仕組みまで見直したくなったときに手に取る位置づけです。
※Amazonのリンクにはアフィリエイトを含みます。
